児童期
生活リズムをつくる
入所施設を利用する障害の重い発達障害児の多くが、食事、排泄、睡眠といった生活の基本的なリズムが乱れて入園してきます。まず、入園してまもない人には、快適な生活リズムを獲得することをめざして支援します。
食事も量や時間を一定に継続することで適切な食事量で満足する、排泄も時間を一定の時間帯に収まるように継続的な支援をすると失敗がなくなる、睡眠も入眠時と起床時を一定にすることを継続することで十分な睡眠が確保されるように変化していきます。このようなリズムのある生活の基本的な組み立てに心がけるなかで、多くのお子さんがコンスタントな食事、定時の排泄、定時の睡眠を獲得し、快適な生理的生活リズムを回復していきます。
身辺処理技能の獲得
発達障害児にとっては、食事、排泄、洗面入浴、脱着衣などの身辺処理技能を身につけることは、快適な生活をするうえに欠かせません。外出する時などでの生活の質にも深く係わっています。独立心もこの支援指導過程で獲得されるのです。この指導支援過程での印象の良し悪しが以後の対人イメージに投影されるので、無理せずゆっくりとあたたかく持続的な関わりの中から習慣化していくことが大切です。
弘済学園では、障害の重い人には習慣化することに、軽い人には身辺処理への意識の向け方について重点をおいて、支援しています。この人たちは概念的な知識は苦手なので、実用的知能を尊重して得意な手続き的知識を正確に教えたり、工程を細分化して分かりやすくする、また衣服・食器等器具に工夫をするなどで、一人でできるように支援しています。その結果、障害が重くても自ら食べたり、排泄の失敗も少なくなる、虫歯もみられない、衣類も能力にみあった服を着られる、等の力が育っています。
発達学習
入所施設を利用する障害の重い発達障害児は発達期にあり、発達を促す課題を提供しなければなりません。発達とは、認知、運動、社会性、身辺処理、言語等々の領域を含んでいます。
施設を利用する重度最重度の知的障害児では、
(1)認知に関しては前シンボル的段階の方が多いので、感覚運動的知能をピアジェ等を参考に6段階にわけた教材により発達指導を行っています。
(2)運動に関しては専任の職員を配置し、体育を毎日実施する中で運動能力の開発と発散や開放感を求めています。
(3)社会性については構造化された日常生活のなかでえられる安定が対人関係に及ぶようにし、この安定感を基礎に、集団への合流、挨拶、手つなぎ、待つこと、報告、さらにはカードなどの媒介を使っての要求行動、などの社会的スキルを育てています。
(4)身辺処理については、入所施設利用期間がおよそ10年くらいの期間のなかで無理せずしかし着実に指導を進めることで、たとえ重度の方であっても相当程度の自立がえられるようにしています。
(5)言語領域については利用者の多くが前シンボル的な段階であり一語発話のレベルであるため、言語の基礎となる一定の安定した経験を増やし、指示対象が何か、理解できるような経験を増やしています。ある程度シンボル機能が獲得されている人には養護学校の訪問教育で個別に言語教育を行っています。
(6)その他、音楽は障害が重くても非言語的に楽しめる領域であることから専任の職員を配置しています。
秦野養護学校との連携
現在、児童施設では学習は養護学校(特別支援学校)におくりだす形態をとっています。養育は児童施設、教育は学校という二分法にもとづいているといえます。
しかし、発達障害のごく重い人、とくに当園のような入所施設を利用するにいたった行動障害の強い人では、過去に学校と家庭という二分された環境がむしろマイナスに作用し入所施設利用に至った例が少なくありません。そこで弘済学園では神奈川県立秦野養護学校と連携をし、訪問教育を実施してもらっています。弘済学園のデイケア職員と学校の教師とを二名の担任として配置し進める形態のなかで生活領域での指導と日中の指導との連携が緻密にすすめることが保障され、一人ひとりの全体像をあきらかにしながら支援することが可能になっています。
体育・音楽を楽しみに
入所施設を利用する発達障害児では、前言語的な発達段階にある人が大多数です。障害のない人たちでの楽しみの多くは、言語や概念たとえば、ルールなどシンボル機能を媒介にしたものです。それらの発達段階に達していず、シンボル機能を利用できない発達障害児では、感覚遊びや常同運動など自己刺激活動に向かいがちとなります。そこで弘済学園では体育や音楽など言葉なしに楽しめる領域を重視して楽しめるプログラムを組み立てています。
音楽と体育のそれぞれに、専門の職員をおいて毎日40分程度の指導支援を行っています。音楽では、楽器を演奏できない人に、リトミック様のもの、動作歌、リラックスできる音楽、などで楽しめるプログラムを実施しています。体育では、音楽に合わせた十分なランニング、マットでの前転、側転、後転、肋木などを利用してのサーキット、トランポリン等々のプログラムを実施しています。